公正証書を作っても「使えない」「無効」に。~家族信託の裁判例が教える"落とし穴"~
2026年10月21日 10:22
浦安の皆さま、こんにちは。浦安くらしサポートの南本です。
相談会で、よくこう言われます。
「公証役場で作ったんだから、もう安心ですよね?」
はっきり言います。公正証書は「安心のお守り」ではありません。
実際に、公正証書で作ったのに銀行で使えず、作り直しになった家族信託があります。裁判で無効にされた家族信託もあります。
今日は、本当にあった裁判例を5つご紹介します。読み終わるころには、家族信託で大事なのは「書類の形」ではなく「本人の意思」だということが、腹の底から分かるはずです。
そもそも、なぜ「公正証書なら安心」と思ってしまうのか
公正証書は、公証人という法律のプロが関わって作る、信頼性の高い書類です。だから「これさえあれば大丈夫」と思いがちです。でも、公証人が確認するのは、主にその日、その場での本人確認と意思確認です。
・その契約が、家族の状況に本当に合っているのか
・銀行が、その契約書で口座を作ってくれるのか
・ほかの相続人の権利を、不当に奪っていないか
ここまで保証してくれるわけではありません。中身の設計は、あくまで依頼した家族と専門家の責任なんです。
★南本から一言
公正証書は「形」を整えてくれます。でも、「中身」まで正しくしてくれるわけではありません。中身は信頼置ける専門家に頼まないと、適当な人に依頼すると大変な後戻りになります。気を付けてください。
【裁判例①】公正証書なのに、銀行で使えなかった(東京地裁 令和3年9月17日判決)
高齢の方が専門家に家族信託をお願いし、公正証書で信託契約書を作りました。
ところが、予定していた銀行に持っていくと、信託専用の口座(信託口口座)を作ってもらえなかったのです。原因のひとつは、公正証書を作るときに、ご本人ではなく代理人が手続きをしていたことでした。銀行の審査が通らなかったのです。
結局、家族は別の公証人のもとで公正証書を作り直し、登記もやり直すことになりました。
裁判所は、手続きを担当した専門家に、受け取った報酬や、登記をやり直す費用などを支払うよう命じました。専門家には、リスクをきちんと説明する重い義務があると判断されたのです。
※南本から一言
公正証書があっても、ご本人が公証役場に行っていなければ、使えないことがあります。「忙しいから代理人で」は、いちばん危ない近道です。いけないなら、公証人に来てもらう段取りを組まないとNGとなります。その点、知らない方がまだまだ多いです。
【裁判例②】判断力が落ちてから結んだ信託は「無効」
(東京地裁 令和4年10月14日判決)
70代の女性Xさん。老人ホームに入ったとき、認知機能の検査(長谷川式)の点数は30点満点中6点でした。その約7か月後、Xさんは信託契約を結びます。管理を任されたのは、以前からXさんと任意後見の契約を結んでいた専門家でした。この信託契約は、公正証書ではありませんでした。その後、専門家は信託した不動産を、相場より安い値段で売ってしまいました。裁判所は、契約のときにXさんには契約内容を理解する力(意思能力)がなかったと判断し、信託を無効にしました。
※南本から一言
本来なら、まだ認知症になる前に、任意後見を正式にスタートさせて、家庭裁判所の監督を受けるべき場面でした。信託は「判断力が落ちてから慌てて結ぶもの」ではありません。この「任意後見の契約を結んでいた専門家」の責任は重いと思います。
【裁判例③】「遺留分逃れ」は通らない
(東京地裁 平成30年9月12日判決)
これは、家族信託の世界ではとても有名な裁判です。
お父さんが、次男に管理を任せて、自宅や賃貸アパートなど全ての不動産と、現金300万円を信託しました。お父さんが亡くなった後の取り分(受益権)は、
子ども 取り分
長男 6分の1
長女 6分の1
次男 6分の4
一見、長男にも「法律で守られた最低限の取り分(遺留分)」くらいは配っているように見えます。ところが、信託した財産の中には、自宅、倉庫の敷地、私道、山林など、売る予定も貸す予定もなく、お金を生まない不動産が含まれていました。つまり長男の「6分の1」は、形だけの取り分だったのです。裁判所は、お金を生まない不動産を信託に入れた部分について、遺留分の制度をくぐり抜けるために信託を使ったもので、公序良俗に反して無効と判断しました。
※南本から一言
家族信託は「遺留分を逃れる裏ワザ」ではありません。裁判所は、書類の数字ではなく、実際にお金が誰に届くのかを見ています。人の倫理観が問われますね。「公序良俗」違反なんてしてはいけません。
【裁判例③の続き】でも、「意思能力」は認められた ― ここに大ヒントがある
実はこの裁判では、長男は「お父さんには、そもそも契約する判断力がなかった」とも主張していました。
でも、裁判所はこの主張を認めませんでした。理由は次の3つです。
入院したとき、見当識障害(日付や場所が分からなくなる状態)がなく、理解力も良好だった
お父さんが自分で信託銀行の担当者を呼び、説明を聞いていた
診療記録に、意識障害などの記載がなかった
つまり、「その時の記録」が、お父さんの意思を守ったのです。
※南本から一言
裁判になったとき、本人はもう証言できないことが多い。本人の代わりにしゃべってくれるのは「記録」だけです。日記帳のようなものでも良いので、出来事を記録しておくことが大事ですね。メモ魔になりましょう!
【裁判例④】契約書の一文で、受託者を交代できなかった
(東京地裁 令和5年3月17日判決)
もうひとつ、別の角度の落とし穴です。
財産を任せたご本人(受益者)が、管理している家族(受託者)を「もう交代してほしい」と考えて、解任しようとしました。
ところが、信託契約書にはこんな一文がありました。
「受益者は、受託者との合意により、信託契約の内容を変更し、一部を解除し、または終了させることができる」裁判所はこの一文を、受託者の同意がなければ解任もできないという意味だと判断しました。その結果、受託者の同意なしに行った解任は無効になりました。
※南本から一言
「たぶん大丈夫だろう」で書いた一文が、何年も後に家族を縛ります。交代や終わらせ方まで、ルールをはっきり書いておくことが大事です。信託の世界は、まだ判例が乏しいです。判例が出て、初めて信託契約書の不備が成立するリスクがあります。それ故、専門家は、より慎重に、曖昧な表現をさけて、確実な信託契約書を締結しておく必要があります。これも専門家としての力量(コンサル力)の差が出る領域だと思います。
浦安でも起こりうる ― よくあるご相談から(架空の事例)
裁判例は遠い話に聞こえるかもしれません。でも、同じ種はどこの家庭にもあります。よくあるご相談をもとにした、架空の事例を2つご紹介します。
【事例A】入船のCさん ― 「代理人でいいですよ」に乗ってしまった
お母さまの体調が悪く、公証役場まで行くのが大変。「代理人でも手続きできますよ」と言われて、そのまま進めました。ところが、地元の銀行で信託口口座の開設を断られます。裁判例①と同じパターンです。
→ 対策: 契約書を作る前に、口座を作る予定の銀行に「この進め方で口座を作れますか」と確認する。体調が心配なら、公証人に自宅や病院まで来てもらう方法もあります。
【事例B】日の出のDさん ― 「兄には内緒で」が裁判の種に
お父さまの物忘れが増えてきたため、Dさんは急いで信託を結びました。お兄さんには知らせないままでした。お父さまが亡くなった後、お兄さんから「父はもう判断できなかったはずだ」と言われます。でも、契約したときの様子を示す記録が、何も残っていませんでした。
→ 対策: 契約したときの本人の様子を記録に残す。家族にも事前に説明しておく。
「無効」と言わせないための、記録の残し方 7つ
裁判例③が教えてくれた教訓を、今日から使える形にしました。
やること①
契約の前後に、医師の診断書をもらう(必要なら長谷川式などの検査も)
なぜ大事か 契約したときの判断力を、第三者の目で記録できる
やること②
専門家との面談を複数回行い、記録を残す
なぜ大事か 1回だけの面談より、時間をかけて考えたことが伝わる
やること③
「なぜ信託をしたいのか」を、本人の言葉で書き残す
なぜ大事か 誰かに言わされたのではないことの証拠になる
やること④
本人が公証役場に行く(行けなければ公証人に来てもらう)
なぜ大事か 代理人による手続きは、口座が作れない原因になる
やること⑤
本人の同意を得て、説明の場面を録音・録画する
なぜ大事か 本人の受け答えが、何よりの証拠になる
やること⑥
家族会議を開き、議事メモを残す
なぜ大事か 「聞いていない」という争いを防ぐ
やること⑦
契約までの経緯(日付・誰が何をしたか)を時系列でまとめる
なぜ大事か 何年後に争いになっても、説明できる
※南本から一言
記録は「家族を疑うため」に残すのではありません。「家族が疑われないため」に残すんです。
専門家に必ず確認したい6つの質問
家族信託を頼む前に、この6つを聞いてみてください。はっきり答えられない専門家は、要注意です。依頼しない方が良いです。
「本人が公証役場に行く段取りにしてもらえますか?」
「口座を作る銀行に、契約書の案を事前に見せてもらえますか?」
「ほかの兄弟の遺留分は、どう考えていますか?」
「受託者の交代や、信託を終わらせるときのルールはどう書きますか?」
「受託者に万一のことがあったときの、予備の受託者はどうしますか?」
「税金について、税理士と連携していますか?」
公正証書は大切です。でも、それだけで安心してはいけません。
家族信託の本当の土台は、親御さんご本人の「こうしたい」という意思です。その意思を、元気なうちに、きちんと形にし、記録に残す。これが、家族を守る一番の近道です。
相続や終活は、「知識」があれば怖くありません。浦安の皆さまが、親御さんと一緒に、前向きに、はつらつと人生100年時代を歩んでいけるように。私はこれからも、本当に役立つ知識をお届けしていきます。
浦安くらしサポート株式会社 代表取締役 南本 静志 (社会保険労務士・中小企業診断士・相続診断士・FP2級・宅地建物取引士)
【お問い合わせ・無料相談会】
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参考にした情報
※本記事は2026年10月時点の一般的な情報です。裁判例は公開されている解説資料をもとに、分かりやすく要約しています。事例A・Bは、よくあるご相談をもとにした架空のものです。個別の判断は、司法書士・弁護士・税理士などの専門家にご相談ください。
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