成年後見が「やめられる制度」に!家族信託はもういらない?【2026年法改正】
2026年10月21日 10:19
「後見が使いやすくなるなら、高いお金を払って家族信託を組む必要はないのでは?」
2026年6月、成年後見制度を26年ぶりに大きく見直す改正民法が成立しました。
「終身制」の廃止、「後見」「保佐」の「補助」への一元化——ニュースを見て、そう感じた方も多いと思います。
結論から書きます。家族信託が不要になるわけではありません。
ただし「とりあえず家族信託」を選ぶ必要は、なくなりました。
この記事では、改正で何が変わるのかを整理したうえで、それでも家族信託でしかできないことを、フェアに比べていきます。
1. 2026年6月に成立した改正のポイント
まず事実関係から。改正案は2026年4月3日に閣議決定され、6月17日に成立、6月24日に公布されました(令和8年法律第45号)。
主な内容は次の6つです。
① 後見・保佐を廃止し、「補助」に一元化 これまでは「後見」「保佐」「補助」の3つに分かれ、本人の判断能力の程度で機械的に決まっていました。改正後は入口を「補助」に一本化し、必要な行為ごとに権限を付与する形になります。
② 「オーダーメイド方式」への転換 「福祉サービスの契約だけ」「不動産の売却だけ」というように、必要な支援だけを選べるようになります。権限を与えるときは、原則として本人の請求か同意が必要です。
③ 「終身制」の廃止 判断能力が回復していなくても、家庭裁判所が「もう必要ない」と認めれば利用を終えられるようになります。あわせて補助人が年1回、本人の状況を家庭裁判所に報告することが義務づけられました。ただし、家族の都合で自由にやめられるわけではなく、決めるのはあくまで家庭裁判所です。
④ 「特定補助」の特例 判断能力を欠く常況にある人には、預貯金の払戻しや不動産の処分などについて取消権を持つ「特定補助人」を付けられます。従来の後見に近い強い権限なので、慎重な運用が求められています。
⑤ 不正がなくても交代できる 解任の理由に「本人の利益のために特に必要があるとき」が加わりました。横領がなくても、面談をしない、本人と合わない、といった場合に交代の道が開けます。
⑥ 報酬の見通しが立ちやすくなる 報酬を決めるときの考慮要素に「実際に行った事務の内容」が明記され、認められた報酬の実績も公表される予定です。ただし、報酬額そのものを下げる改正ではありません。
遺言制度も同時に変わります
押印の任意化(公布から1年以内に施行)
保管証書遺言の創設——電子データで作成し、法務局で保管する方式(公布から3年以内に施行)
「公正証書でないと不安」という前提が、数年で少しずつ変わっていきます。
2. で、いつから変わるの?
気になる施行時期です。法律は「公布の日から起算して2年6月を超えない範囲内において政令で定める日」としています。公布日は2026年6月24日なので、遅くとも2028年12月24日までには施行される計算です。
具体的な日付を決める政令は、2026年8月時点では公表されていません。つまり、しばらくは今のルールで手続きが進みます。
すでに後見・保佐を利用している人は、基本的に今の内容のまま継続できます。ただし、補助人の解任事由と、本人の意向を把握する義務については、施行日から新しい民法が自動的に適用されます。
3. それでも「後見ではできないこと」
ここが本題です。制度が使いやすくなっても、成年後見は「本人の財産を減らさず、生活を維持する」ための仕組みです。次のことは、原則としてできません。
できないこと
理由
遺言の作成
遺言は本人しかできない(一身専属)とされるため
家族への支援(孫の教育資金、子の結婚資金など)
本人の財産を減らす行為にあたるため
積極的な資産活用(投資、建て替え、リフォーム)
財産の保全が最優先で、リスクのある行為は原則制限されるため
自宅(居住用不動産)の売却
家庭裁判所の許可が必要で、やむを得ない理由がないと下りない
二次相続まで見据えた承継設計
後見の目的は本人の保護で、先の世代の設計までは及ばない
身上監護(施設入所契約、医療同意など)
財産管理の仕組みであり、身上監護は対象外
そして、いちばん大事な点。後見は「家庭裁判所が決める」制度です。本人が元気なうちに「この財産はこう使ってほしい」と自由に設計する仕組みではありません。
一方の家族信託は、元気なうちに本人の意思で契約を組み立てる仕組みです。信託目的の範囲内なら、収益不動産の管理や投資もできますし、遺言では指定できない二次相続の設計もできます。
ただし、家族信託にも弱点があります。
認知症を発症して判断能力が落ちた後では、契約できません
信託できる財産は限られます(年金や農地は信託できません)
身上監護はできません(施設入所契約などは対象外)
受託者になれる家族がいることが前提です
4. 家族信託が向いている人・向いていない人
向いている人
認知症になる前に、自分の意思で財産の使い道を決めておきたい
実家の売却や、収益不動産の管理を家族に任せたい
賃貸経営など、判断能力が落ちても続けたい財産がある
二次相続まで含めて承継を設計したい
共有名義の不動産など、将来もめそうな種を先に潰しておきたい
向いていない人
財産が預貯金中心で、大きな売却や活用の予定がない
受託者を任せられる家族がいない
費用をかけたくない
すでに判断能力が低下している(契約ができない)
目的が身上監護(施設入所契約・医療同意)である
そして、いちばん現実的な答えは「併用」です。
財産管理は家族信託で、医療・介護の契約や施設入所といった身上監護は任意後見で。それぞれの「できないこと」を補い合えます。改正では、任意後見と補助の併用も認められる方向です。
まとめ
「後見が使いやすくなる」=「家族信託がいらない」ではありません。
改正で変わるのは、公的な制度が「最後の手段」から「選べる支援」になることです。家族信託は、元気なうちに自分で設計する民間の仕組み。役割が違います。
だからこそ、これからは「どちらが優れているか」ではなく、「あなたの財産と家族構成なら、どちらが、あるいは両方が必要か」で考えるべきです。
3つの制度(遺言・成年後見・家族信託)の違いは、こちらの記事に1枚の表でまとめています。
出典
※本記事は2026年10月時点の情報です。施行日や制度の詳細は政令で定められるため、最新の情報をご確認ください。個別の判断は、司法書士・弁護士などの専門家にご相談ください。